子供の視野は狭い?
2019年6月6日のあさイチで、子供の視野がいとの放送があったが果たして本当だろうか。
交通事故などの文脈で、幼児は視野が狭いので、大人が気付いていても子供は気付かないというように語られていたが、その理由については詳しい解説はなかった。
東京都福祉保健局のHPや消費者庁などでは、幼児視界体験メガネと称して、子供の視野を体験するメガネが公開されており、これによると、大人の水平視野は150°に対して、子供のそれは90°、垂直方向は大人120°に対し、子供70°しかないという。
どうもこの根拠としてはスティナ・サンデルス(1977). 「交通の中のこども」 全日本交通安全協会が翻訳した文献にあるようだ。しかし、この翻訳書は入手できず、原著と思われる、Sandels,S.(1970)”Young Children in Traffic”が入手できたため、確認してみたが、特に視野についての言及は一切なく、「就学前の子どもには、交通事故を避けるために必要な状況判断や認知能力はない。子どもを交通事故から守るには、子どもを交通安全教育により交通状況に合わせさせるのではなく、子どもが交通事故に遭わずにすむ交通環境を作るしかない。」という趣旨の内容である。
実際に小児の視野を測定した、論文等を確認してみると、論文や測定方法によって多少の結果の差はあるものの、小学生では年齢によらず、140°程度の視野は確認されており、Maurerらの報告によると小学生どころか、6カ月の乳児の時点で大人と同等の視野を有するとのこと。これらの結果からするに、子供の視野が90°ということはさすが無理があるよね。
HPを見ていると、東京都や省庁、ホンダなどが、このことを取り上げ、学校ではこのメガネを学生にかけさせ「子供たちの視野はこんなに狭いんだ!」という教育がされているようであるが、誤解を招く教育ではないだろうか。
根拠となる翻訳書が確認できていないが、Sandelsの原著から考えれるのは、ここで言われている視野が狭いというのは、実際の視野の問題ではなく、認知機能の問題であろう。つまり、子供たちは目の前のことに意識が集中するあまり、周りが見えなくなっているということである。
確かに、広い意味で「視野が狭くなっている」ということであるが、他に注意をもっていかれていなければ、子供も大人と同じ視野を持っている。例えば、スマホをしながら歩いていたりすると、大人も「視野が狭い」状態になっているのである。これを「子供の視野の角度は~ですよ」と表現するのは誤解を招く表現ではなかろうか。